純粋無垢、と言う強さ。ディスクレビュー:ズーカラデル「リブ・フォーエバー」
これは事件だ。
一瞬で過ぎた19分26秒。
ズーカラデル「リブ・フォーエバー」を聴いて、確信した。
このバンドはとてつもないアルバムを作ってしまった。
一方通行の愛憐、無償の愛、哀愁、悲壮感、後悔、そして溢れる希望。作詞作曲を手掛ける吉田崇展の心の内側に溢れる感情が詰まった最高の1枚である、と声を大にして言いたい。
このバンドは間違いなくもっと大きくなる。
そんなズーカラデルの2nd ミニアルバム「リブ・フォーエバー」を、独断と偏見に満ちた解釈のもと1曲ずつ紹介。
1.誰も知らない
小気味の良いギターカッティングから始まるこの曲。
この曲は、アルバム通しても一番謎な歌詞。だけど、どこか甘酸っぱいサウンドとこの歌詞。
まだ誰も知らない 君の奥に潜む化け物 ふたりで隠した 遠い夏のこと
大人になった時ふとした瞬間に思い出す、輪郭のぼやけた若かりし頃の思い出はいつも綺麗。歌詞の中で描写はないのだけれど、そんな感情と同時に哀愁を感じてしまう1曲。
2.アニー
百聞は一見にしかず。どうぞ。
3.春風
時が経ち遠くなったからこそ気付いた「大切な人がいるだけで素晴らしかった日々」に別れを告げ、新たな生活へと町を出てゆく旅立ちを歌ったこの曲は、アコースティックギターとホーンのアレンジが秀逸。
過ぎる景色 秘密のこと 束ねたら 窓の外に放して見送るから 手を振ってね
曲の大団円へ繋がるこの一節が、とてつもなく切なく、そして美しい。
タイトルそのままに、少し暖かくなった季節にふっと吹く春の風を感じる1曲。
4.ジャーニー(Acoustic)
ブリキのおもちゃがモチーフの1曲。
手が届くほど近くに居るのに、決して触れられない距離。そんなどうしようも出来ないもどかしさと「君」への想いを、ブリキの人形という主人公に置き換えて歌われた童話のような物語。
5.夜に
クリスマスの夜、行き交う人混みに昔の恋人を思い出す「彼女」を軽快に歌った1曲。底抜けに明るくアップテンポな演奏は、ライブでみんなが歌う定番曲になること間違いなし。
こう書いているとセンチメンタルな曲が多いが、決してそうではない。ズーカラデルは、常に前向きだ。
「大人になる」ということは「自分には決して叶わないものがある」と諦めることを積み重ねて現実に向き合っていくことだ、と僕はいつしか思っていた。
「自分はこの世界の主役だ、何にでもなれる。」と信じてやまなかったあの頃が輝いて見えるのは、挫折や別れを経験し、現実を知り、いつしか夢を掴もうとすることを諦めた大人になってしまったことの反動だろう。
しかし、このアルバムの曲は「そんなもん乗り越えて、明日になればもっといいことが待ってるかも知れないんだぜ!」と言わんばかりの清々しいほどに純粋無垢な明日への希望に満ち溢れたメッセージが込められている。
純粋無垢に明日を信じる強さ。これこそ、ズーカラデルの"ストロング"バンドたる由縁。
立ち止まって、後ろを向いて、気が済むまで泣いたら、また笑って、そして歌おう。
大人になって忘れてしまった大切な気持ちを思い出させてくれる、そんなアルバム。
もうこれは名盤。